Matrix

[2002-04-03] by すす

(数Numericを要素とする)行列を扱うクラス

行列

m×n個の数a(i,j)を

[ a(0,0) a(0,1) a(0,2)  a(0,3) ... a(0,n-1)   ]
[ a(1,0) a(1,1) a(1,2)  a(1,3) ... a(1,n-1)   ]
[ a(2,0) a(2,1) a(2,2)  a(2,3) ... a(2,n-1)   ]
[                                             ]
[ a(m-1,0)                         a(m-1,n-1) ]

のように、縦横の表にあらわしたものを(m,n)型の行列という。 m=nの行列をm次の正方行列(square matrix)という。

上からi番目の横の数の並びを第i行(the i-th row)、 左からj番目の縦の数の並びを第j列(the j-th column)という。

(m,n)型行列は、 大きさnの行(横)ベクトルをm個縦に並べたものとみなすこともできるし、 大きさmの列(縦)ベクトルをn個横に並べたものとみなすこともできる。

第i行、第j列にある数a(i,j)を(i,j)要素*1(the (i,j)-th element)という。

i=jの要素a(i,j)を対角要素(diagonal element)、 それ以外の要素を非対角要素(nondiagonal element)という。

使い方 Usage

Matrixクラスを使うためには、require 'matrix'する必要がある。

require 'matrix'

インスタンス生成 Instance Creation

Matrix.[rows]

rowsを要素とする行列を生成する。 ただし、引数rowsはネストした配列(=配列の配列)である。 例 Matrix[[11, 12], [21, 22]]

Matrix.rows(rows, copy = true)

rowsを要素とする行列を生成する。 ただし、引数rowsはネストした配列(=配列の配列)である。 また、オプション引数 copy が偽(false)ならば、複製を行わない。

Matrix.columns(columns)

columnsを列ベクトルの集合とする行列を生成する。

Matrix.diagonal(values)

対角要素がvalues(オブジェクトの並び)で、非対角要素が全て0であるような正方行列を生成する。

(注:) valuesに一次元Arrayを1個指定すると、そのArrayを唯一の要素とした1×1の行列ができる。

Matrix.scalar(n, value)

対角要素が全てvalue(数)で、非対角要素が全て0であるようなn次の正方行列を生成する。

Matrix.identity(n)
Matrix.unit(n)
Matrix.I(n)

n次の単位行列を生成する。

単位行列とは、対角要素が全て1で、非対角要素が全て0であるような行列である。

Matrix.zero(n)

n次の零行列を生成する。 零行列とは、要素が全て0の行列である。

Matrix.row_vector(row)

要素がrowの(1,n)型の行列(行ベクトル)を生成する。 ここで、引数rowは、VectorまたはArrayで与えられる。

Matrix.column_vector(column)

要素がcolumnの(n,1)型の行列(列ベクトル)を生成する。 ここで、引数columnは、VectorまたはArrayで与えられる。

読み出し書き込み Accessing

Matrix#[i, j]

(i,j)要素を返す。

Matrix#row_size

行の大きさを返す。

Matrix#column_size

列の大きさを返す。

Matrix#minor(from_row,row_size,from_col,col_size)
Matrix#minor(from_row..to_row,from_col..to_col)

部分行列を返す。たたし、パラメータは、次の方法で指定する。

  1. 開始行番号, 行の大きさ, 開始列番号, 列の大きさ
  2. 開始行番号..終了行番号, 開始列番号..終了列番号
Matrix#[i, j] = x

(i,j)要素をxに変更する。

このメソッドは、matrix.rbに定義されていない。 以下に、その定義と使用例を示す。

require 'matrix'

class Matrix
  def []=(i,j,x)
    @rows[i][j]=x
  end
end

m=Matrix[[11,12],[21,22]]
m[1,1]=-1
p m #=> Matrix[[11,12],[21,-1]]

演算 Arithmatics

Matrix#* m

行列mを右から乗じた行列を返す。

Matrix#+ m

行列mを加えた行列を返す。

Matrix#- m

行列mを減じた行列を返す。

Matrix#/ m

行列mの逆行列を右から乗じた行列を返す。

Matrix#inverse
Matrix#inv

逆行列を返す。

Matrix#** n
Matrix#power(n)

スカラーnに対するべき乗を返す。

Matrix#** m
Matrix#power(m)

行列mに対するべき乗を返す。

行列に対する関数 Matrix functions

Matrix#determinant
Matrix#det

行列式(determinant) *2を返す。

Matrix#rank

階数(rank) *3を返す。

Matrix#trace
Matrix#tr

トレース(trace)を返す。 行列のトレース(trace)とは、対角要素の和である。

Matrix#transpose
Matrix#t

転置行列(transpose matrix)を返す。 冒頭に掲げた行列に対して、a(j,i)を(i,j)要素とする(n,m)型行列を転置行列という。

イテレータ Iterators

Matrix#row(i)

第i番目の行ベクトルを返す。 ブロックが与えられたときは、各行ベクトルについて、ブロックを繰り返す。

Matrix#column(j)

第j番目の列ベクトルを返す。 ブロックが与えられたときは、各列ベクトルについて、ブロックを繰り返す。

Matrix#collect {|x| ... }
Matrix#map {|x| ... }

行列の各要素に対してブロックの適用を繰り返した結果を、要素として持つ行列を生成する。

判定 Testing

Matrix#regular?

正則(regular)なら真を返す。

行列が正則であるとは、正方行列であり、かつ、その逆行列が存在することである。

Matrix#singular?

特異(singular)である、すなわち、正則でないなら真を返す。

Matrix#square?

正方行列であるなら、真を返す。

型変換 Converting

Matrix#row_vectors

列ベクトルの配列を返す。

Matrix#column_vectors

行ベクトルの配列を返す。

Matrix#to_a

Arrayに変換する。 結果は、ネストした配列(配列の配列)となる。

Matrix#to_f

各要素を浮動小数点数Floatに変換する。

Matrix#to_i

各要素を整数Integerに変換する。

Matrix#to_r

各要素を有理数Rationalに変換する。

Complexクラスとの併用 Working with Complex class

require 'complex'することによって、 Matrixオブジェクトの要素はComplexクラスに拡張される。 多くのメソッドは、この拡張されたMatrixクラスでも、期待通りに動作する。

次の例は、各要素を共役複素数に置換するメソッド(Matrix#conjugate)である。

require 'matrix'
require 'complex'

class Matrix
  def conjugate
    collect{|e| e.conjugate }
  end
end

ChangeLog


*1elementという語には、数学では「成分」、物理では「要素」という訳をあてる。数学の「要素」はcomponentという語に当たる
*2線形代数の教科書を見よ
*3線形代数の教科書を見よ



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